原作・脚本は、ジム・トンプスン、デイヴィッド・グーディス、ライオネル・ホワイトらと並 んでカルト的な人気を誇る、奇妙な味わいのクライム・ノヴェルを得意としたパルプ作家チャー ルズ・ウィルフォード。

 低予算映画の帝王ロジャー・コーマンが、“闘鶏” という斬新なテーマに観客が飛びつき大ヒッ トするものと確信して製作したのが本作。『断絶』(71)の興行が惨敗に終わり、ハリウッドか ら干されていたモンテ・ヘルマン監督に、復活のチャンスを与えたのだった。その結果、映画 で描かれることはめったにない闘鶏の世界を背景とし、ヘルマンの盟友ウォーレン・オーツ演 じる一風変わった男を主人公とする、他に類を見ないロードムーヴィーができあがったが、結 果はまたもや興行的大惨敗。本作は、コーマン製作作品でたった2 本しかない赤字作品のうち の1本となってしまった。

 コーマンは製作費を回収するべく、別作品からヌード場面とカーチェイス場面を入れて再編 集、タイトルも「BORN TO KILL」、「WILD DRIFTER」など次々と変更され、しまいにはポスター に描かれたウォーレン・オーツが斧を振りかざすことになる(そんな場面は存在しないにも関 わらず)。ちなみに今回上映の版は、もちろんコーマンによる改竄版ではない。  そして、自作の興行的失敗が続いたヘルマンは、この後ついにヨーロッパでの映画製作を余 儀なくされることになる。だが完成作は、ジョナサン・ローゼンバウムやトム・ミルンなど一部 のうるさ型批評家から賞賛された。

 そんな超異色作が、日本で公開されるわけもなく、長らくファンの間で伝説として語られる だけになっていた。とはいえウォーレン・オーツが、ひと言も喋らぬ主人公を『ガルシアの首』(サ ム・ペキンパー、74)と双璧をなす大熱演、のちに『天国の日々』(テレンス・マリック、78) でオスカー最優秀撮影賞受賞撮影監督となるネストール・アルメンドロスにとってブレイク前 のアメリカ映画作品となるなど、映画史的価値は絶大。後に都会的でメロウなAOR シンガー ソングライターとして頭角をあらわすマイケル・フランクスが、そのパブリックイメージと真 逆の土臭い音楽を本作のために提供している点も、聴き逃せない。編集を担当したのは、この 後『アリゲーター』(80)、『ナイルの宝石』(85)、『ネイビー・シールズ』(90)といった作品を 監督することになるコーマン組のルイス・ティーグだ。

 そして後にも先にも本作にしかない、ラストシーンの凄絶な愛の表現には、ヘルマン映画特 有のテーマ──男女間の(ディス)コミュニケーション──がにじみ出て、観る者に複雑な感 慨をもたらすことだろう。

 製作から39 年。ウォーレン・オーツの怒りと悲しみと痛みを湛えた曖昧な微笑みとともに、 呪われた映画がついに日本初公開!